島根県安来市加納美術館 四國五郎展を訪ねて
2023年8月16日訪問
。。。長くなっちゃいましたので、お時間ある時にどうぞ。なお、四國五郎展は2023年10月15日までです。
中澤晶子さんの「いつものところで ワタシゴト 14歳のひろしま・3」 という本が2023年7月に発売されました。「ワタシゴト」三部作の完結編で、私はこの8月に三部作全部一気読みしました。広島を修学旅行で訪れた中学生が、原爆に関連する物や場所にまつわる体験をしていく物語が数編ずつ入っています。中学生たちと一緒に色々なことを考えられます。超おすすめ。中学生はもちろん、大人も含めてたくさんの人に読んでほしいです。最新の三作目は修学旅行から帰ってきて、感じたことを次にどうつないでいくか?という内容なんですが、ここに四國五郎さんの話が出てきます。
四國五郎さんといえば絵本「おこりじぞう」の絵を描いた人、くらいの印象しかなかったんですが、俄然興味が湧きまして、広島に帰省した帰り道に島根県安来市の加納美術館で開催中の四國五郎展を見に行くことにしました。
レンタカーなしで公共交通機関と徒歩のみ利用、当然じっくり見たい、という要件を満たすには泊まりがけ必須。実は安来市、広瀬町、どちらも見どころいっぱいだったので、もっとゆっくり行けばよかったと思ってます。
当初予定では広島から新幹線で岡山へ行って、そこから特急やくもで安来市というつもりでした。 広島駅での表示
ところが出発前日2023年8月15日は台風の影響で新幹線が計画運休・・・
出発予定日の8月16日にも台風による影響が続き・・・鉄道で山陽側から山陰行くの無理でした。 これは安来駅での表示
そのため、急遽予定変更して、広島から米子まで高速バスで行き、米子から山陰本線で安来(米子ー益田間は通常運転)というコースにしました。
9:50広島駅新幹線口発、13:28米子着、4800円
乗客は9割くらい埋まってる感じ。途中、中国自動車道江の川PAで10分休憩。米子駅へは予定時間のちょい前に到着しました。
13:42米子ー山陰本線ー13:51安来
今回はさぎの湯温泉
というところに宿を取りました。
安来駅からはバスで15分くらいの距離。 向かって左が美術館行きシャトルバス、右がイエローバス
公共交通機関としては安来市のイエローバス、あるいは足立美術館(さぎの湯温泉内にある)に行くならば美術館行き無料シャトルバスが使えます。
2023年8月時点の時刻表はこちら 足立美術館行き無料シャトルバス 安来市イエローバス
最新の情報は以下のリンク先をご覧ください。
安来市イエローバス時刻表
「広瀬ー米子線」です。
足立美術館 無料シャトルバス
私は足立美術館へも行くので、無料シャトルバスを利用することにしました。
バスの発車までの待ち時間を使って、駅内のDELI & KITCHEN halo
で遅めの昼食をとりました。
安来の食材を使ったおまかせデリプレート。美味!。
安来駅から徒歩0分、おすすめです。
14:35発の足立美術館行きシャトルバスで足立美術館へ。10分ちょいで到着。乗客は私一人。
足立美術館 google mapでこの辺
足立美術館には入り口に無料コインロッカーがあるので、大荷物があっても大丈夫。
正直、私、足立美術館
のことを知らなかったんですが、 酷暑の中の手入れ大変そう
行ってみて「あ、こりゃ海外からの観光客に人気あるわ」って思いました。庭園が見事です。
日本画もたくさん展示してあります。
北大路魯山人館もあって、北大路魯山人の様々な作品が展示されていました。
展示作品には昭和20年代のものもあり、
たまたま映画「ひろしま」「原爆の子」鑑賞、そして「はだしのゲン」再読の直後だったもんで、
同じ時代、同じ日本で魯山人の食器を使って食事をしていた人もいた。。。という差に若干めまいがしておりました。
宿はこの美術館の隣にある安来苑。 宿の廊下から足立美術館の新館と駐車場が見えます
この宿には貸切露天風呂があります。
早いもん勝ちで、この札をひっくり返して、鍵をかけると貸切露天風呂!
これは贅沢でした。
宿に食事をお願いすればよかったんですが、計画時に時間がわからなかったんで、素泊まり。
近くにいくつか飲食店もあるようでしたが、明日利用するバス乗り場の下見も兼ねて、徒歩で広瀬町へ。最寄りのコンビニ(ファミリーマート)まで徒歩20分くらい。コンビニのすぐ近くにはスーパーもあります。
翌日
加納美術館に向かうわけですが、公共交通機関は安来市イエローバスしかありません。
安来市イエローバス時刻表
今度は「広瀬~西比田線」です。
2023年8月時点でこのバスを使って加納美術館へ行く場合、
安来駅を起点にするならば、
安来駅ー広瀬バスターミナル(乗換)ー加納美術館
というコースになります。
日・祝日の場合、バスの本数が少ないので、多分この一択
<加納美術館滞在約1時間コース>
(行き)安来駅11:40 ー 12:16広瀬バスターミナル12:42 ー 13:03加納美術館
(帰り)加納美術館14:01 ー 14:21広瀬バスターミナル14:45 ー 15:15安来駅
帰りに加納美術館発14:01のバスを逃すと
加納美術館17:23 ー 17:41広瀬バスターミナル18:40 ー 19:09安来駅
この場合、閉館時間(16:30)から1時間ほど待つ必要があります。
平日の場合、このコースがちょうど良さそう
<加納美術館滞在約3時間コース>
(行き)安来駅10:35 ー 11:11広瀬バスターミナル11:24 ー 11:45加納美術館
(帰り)加納美術館15:09 ー 15:22広瀬バスターミナル15:53 ー 16:25安来駅
そして、私のようにさぎの湯温泉に泊まると広瀬バスターミナルを起点にできます。
日・祝日の場合、安来駅起点と同じコースになっちゃいますが、
平日の場合は美術館に長時間滞在が可能です。
<加納美術館滞在約6時間コース>
(行き)広瀬バスターミナル8:03 ー 8:18加納美術館
(帰り)加納美術館15:09 ー 15:22広瀬バスターミナル
私が行った8月17日は平日ですので、滞在約6時間コースで参ります。
宿から広瀬バスターミナルまでは徒歩で35分くらい
広瀬バスターミナル google mapでこの辺
元々は一畑電気鉄道広瀬線っていう鉄道が走ってたみたいです(1960年に廃線)。 尼子本陣の名水
待合室のところにうっすら「出雲広瀬駅」っていうのが読めます。
待合室では数人の方が待っておられましたが、
8:03広瀬バスターミナル発のバスには乗客私一人。
8:20頃には加納美術館へ到着しましたが、開館は9時なので、少し周辺を散策しました。
バスは美術館から少し離れた尼子本陣の名水のところに着くんですが、運転手さんが「美術館はあそこだよ」って親切に教えてくれました。
安来市加納美術館 google mapでこの辺
うろうろしてるうちに雨がぽちぽち降ってきました。
入り口のところで雨宿りしていたら、美術館の方が出てきて「もう準備できてますんで、どうぞ」ということで開館時間の20分前から鑑賞開始。ありがとうございます!
結局館内3周くらいしましたが、来館者の方は十数人かな。。。
ほぼ貸切に近い状態で、のんびりじっくりと鑑賞できました。
お昼は美術館隣接のレストランやまさや
で本日のランチ1500円
その後もゆーくり過ごして、おやつもこちらで「春のやすぎパフェ」750円(コーヒー別)
どれも美味しかったです。
このレストランやまさやさんはたまに臨時休業の時があるようなので、加納美術館のホームページで事前確認しておくことをお勧めします。ここが休みの場合、昼ごはんは事前に調達しておく必要があります。
さて、四國五郎展です。
美術館のホームページに「展示の様子を見る」というリンクがあって、それを使うと会場内の様子をぐるっと見ることができます。
加納美術館「四國五郎展 シベリア抑留から『おこりじぞう』へ」
展示室内は写真撮影可能です。
事前に息子の光さんが書いた「反戦平和の詩画人 四國五郎」 を読んで行ったので、「あぁ、これかぁ」と確認しながら見ることができました。
展示目録
展示からほんの一部だけ紹介します。
本を読んで一番見たいと思っていたのが辻詩です。
占領下の厳しい言論統制の中、紙に反戦を訴える詩と絵を描いて、街角に画鋲で貼っては剥がしを繰り返していったそうです。
現存する8枚全てが展示されていました。
いくつもあいた画鋲の穴や、テープで補修した跡などが残っていました。
どんな気持ちで貼っては剥がしを繰り返していたのか?そしてこれを見た通行人はどんな反応をしていたのか?気になります。
四國五郎さんはシベリア抑留もされています。 1946年埋葬者を搬ぶ私を写生する1993年の私 コスグラムボに墓標を建立
シベリア抑留の絵の中に、戦後の墓参の人々(その中には墓参している四國さんも描かれてる)が描かれたものがあるんですが、多分、四國さんには当時の仲間たちがこの絵のように見えていたんだと思います。
そして「母子像」 ヒロシマの母子 8月6日午前8時00分 母子
冒頭で紹介した中澤晶子さんの本に出てくるのがこの2点
私は「母子像」ではこちらが好き。 署名
この「大日本帝国兵馬俑」の前ではなんだか目が離せなくなって、 大日本帝国兵馬俑
30分くらいこの作品の前で過ごしたと思います。
こちらを見つめる女の子、
真ん中の兵士は銃口を口にくわえ、それを横から見つめる兵士の目が光り、
恐らく原爆を受けて手の皮膚が垂れ下がった女学生と子供をおぶった母親、
いろんな人がこの中に居ます。
映像展示もあります。
この映像は国立広島原爆死没者追悼平和祈念館ホームページでも見ることができます。
国立広島原爆死没者追悼平和祈念館 企画展ページ
の「時を超えた兄弟の対話 ―ヒロシマを描き続けた四國五郎と死の床でつづった直登の日記―」での展示映像です。
実物展示もあります。
シベリア抑留資料も展示してあって、島根県隠岐島出身山本幡男さんの遺言のコピーもありました。
映画「ラーゲリより愛を込めて」をご覧になった方は、最後のシーン、
「妻よ!よくやった」
あの遺言全文です。映画を思い出しちゃいました。。。
同時開催されているのが
加納莞蕾展「戦犯赦免から70年、今私たちは―」
加納莞蕾さんについては、加納美術館のホームページに詳しい資料があります。
加納美術館 加納莞蕾について
フィリピンのキリノ大統領などに戦犯の助命嘆願書を個人で出し続けた人です。
ただ戦犯の命を助けてほしい、というんじゃなくて、
『フィリピンが本来「赦されざる者」である戦犯を赦すことで、日本人が「過去を反省、懺悔し、積極的に軍国主義を拒否して罪悪の根を断ち切る」んだ』
そういう考えを持って手紙を出し続けた人。
いやぁ、こんな人いたんだ、って思いました。
昼過ぎも美術館内をうろうろしてたら、「遠くからいらしてるそうで。。」と加納莞蕾さんの娘さんで名誉館長の加納佳世子さんに声をかけられて、少しお話ししました。
また近々フィリピンへ行かれるそうで、活発に活動していらっしゃるようです。
加納美術館でたっぷり6時間以上を過ごして、予定通り15:09発のバスで広瀬バスターミナルに戻りました。
広瀬の町を歩いていて気づくのは、「山の方に何かあるなぁ。。。」
月山富田城跡 google mapでこの辺
「何かあるなぁ。。。」じゃないですね。すみません。
日本一の山城です。
詳しくは安来市観光ガイド 月山富田城跡
ふもとに
安来市立歴史資料館 google mapでこの辺
があって、月山富田城のことについてはここで学ぶことができます。
1階の月山富田城の解説展示は無料で見ることができます(写真撮影可)。
2階の常設展示は入館料210円。
ちょうど「回覧文書に見る戦時下の人々のくらし」という企画展をやっていたので見学してきました(こちらは撮影不可)。
「毛屑を集めて兵隊さんの軍服用の資に供しませう」
「規定外ラジオ受信機をお持ちの方は至急届出ないと罰せられます」
「聖戦貫徹講演浪曲会開催の件」
など、この地域で回された回覧板の実物が展示されていて、興味深かったです。
大政翼賛会宣伝部が毎週水曜に発行していた回覧用の「大政翼賛」っていうのもあったんですね。。。
この展示は朝日新聞の記事にもなってました。少し写真もあるんで、興味ある方はどうぞ(有料会員でなくても読めます)
朝日新聞デジタル2023年5月17日「偲べ戦線 求めよ国債」安来市で戦時下の回覧板の文書展示・第2弾
安来市立歴史資料館の隣には
広瀬絣センター google mapでこの辺
広瀬絣。。。これも知りませんでした。
詳しくは広瀬絣技術保存会
月山富田城まで見に行く(=山登り)にはもう1日必要です。。。
他にも広瀬、見どころがいっぱい。
安来市観光ガイド 広瀬
吉田酒造 亀尾商店
いろんな面白そうなものがあります。
そして無造作にこんなものも。。。 google mapでこの辺
この日はスーパーで晩御飯を調達して、もう一泊。
翌日は
さぎの湯温泉8:09発 安来イエローバスで安来駅へ(乗車率50%くらい)
安来はハガネの町です。
駅前には、どーんと株式会社プロテリアル(旧日立金属株式会社安来工場)
たたら製鉄の技術を継承してるそうです。
駅から中海沿いに歩いて15分ほどのところにあるのが
和鋼博物館 google mapでこの辺
和鋼博物館
たたら製鉄の博物館ってここしかないんじゃないでしょうか。
たたら製鉄は一度途絶えていたものを30年の間をあけて技を復元したんだそうで、びっくり。
当時はまだ村下(むらげ:たたら操業の技師長)が健在だったからこそ復元できたようです。
ちなみに、この和鋼博物館を見学する前に、
慶應義塾理工学部伊藤公平先生の物性科学講義を見ておくと楽しさ倍増すると思います。
たたら製鉄、日本刀などの経験的に伝えられている伝統技術の凄さを科学的に説明してくれてて、とても分かりやすくて、面白いです。
Youtube動画:物性科学 第三回 2011年 慶應大学 日吉 総合教育科目
(22分ごろから)
Youtube動画:物性科学 第四回 2011年 慶應大学 日吉 総合教育科目
ちなみにこの1,2回目の原子力発電の仕組みの話もとても分かりやすいです。
昼ごはんは列車内で食べることにして、
再び駅中DELI & KITCHEN halo
で、安来の食材を使ったおまかせデリプレートのお弁当版。
「前に食べたのと同じですよ」
ってお店の人に言われましたが、いいんです。
10分くらいでお弁当を作ってくれます。
特急やくもで岡山に向かい、岡山から新幹線で東京へ帰りました。
長々と書いてきましたが、
とにかく、四國五郎展はおすすめ、安来市も良いところ、ということでした。
更新履歴
2022年9月6日 新規作成
2024年1月2日 移行に伴う見た目調整
2024年1月5日 訪問日追記