防衛大学校卒業式
2014年03月22日
■安倍首相訓示
2013年10月27日の自衛隊観閲式訓示のとき同様に随時私の感想を挟みます。
本日、伝統ある防衛大学校の卒業式に当たり、これからの我が国の防衛を担うこととなる諸君に、心からお祝いを申し上げます。 卒業、おめでとう。
諸君の、誠に凛々しく、希望に満ち溢れた勇姿に接し、自衛隊の最高指揮官として、心強く、頼もしく思います。
また、学生の教育に尽力されてこられた、國分学校長をはじめ、教職員の方々に敬意を表します。日頃から防衛大学校に御理解と御協力を頂いている御来賓・御家族の皆様には、心より感謝申し上げます。
本日は、諸君がそれぞれの現場へと巣立つ、良い機会ですので、内閣総理大臣、そして自衛隊の最高指揮官として、一言申し上げさせていただきます。今日は、22日。15年前の11月、中川尋史空将補と、門屋義廣一等空佐が殉職したのは、22日でありました。まずは、諸君と共に、お二人の御冥福を心よりお祈りしたいと思います。
突然のトラブルにより、急速に高度を下げるT33A。この自衛隊機から、緊急脱出を告げる声が、入間タワーに届きました。
「ベール・アウト」
しかし、そこから20秒間。事故の直前まで、二人は脱出せず、機中に残りました。
眼下に広がる、狭山市の住宅街。何としてでも、住宅街への墜落を避け、入間川の河川敷へ事故機を操縦する。5000時間を超える飛行経験、それまでの自衛官人生の全てを懸けて、最後の瞬間まで、国民の命を守ろうとしました。
二人は、まさに、命を懸けて、自衛隊員としての強い使命感と責任感を、私たちに示してくれたと思います。
(私の感想)
私は亡くなった方を総理大臣という立場の人が使命感・責任感と紐付けて語ってはならないと考えます。
それは批判を封じ込めてしまう効果を持ってしまうからです。
少し(かなり?)話が飛ぶのですが、私が恐れる事の一つは次のような状況です。
それは将来、集団的自衛権の発動やその他の理由で自衛隊の方が戦闘によって命を失うという事が起きてしまった場合です。
その時の首相が涙ながらに「国民のために強い使命感と責任感で命をかけてくれた」と語り、
もしかしたら靖国神社へ祀られるかもしれない。。。
後でも述べますが、自衛隊の方が命を失うような状況とは、多くが政治家達による外交の失敗によるものであると思います。
しかし、このように亡くなった方と使命感、責任感が同時に語られたとき、
本来はこのような事態を発生させてしまった政治家の外交の失敗が批判されるべきであるのに、
その批判が亡くなった方への批判へ短絡されてしまい、相当なバッシングを受ける事が予想されます。
仮に靖国神社へ祀られることになってしまったとしたら、それを批判することは、さらに強い抵抗を受けるのは間違いないでしょう。
それは語る政治家だけでなく、国民全体の思考停止を意味しています。
そうなれば、もはやブレーキはききません。。
想像力を膨らませすぎかもしれませんが、今回の安倍首相のように、政治家が亡くなった方を使命感、責任感と紐付けて触れてはならないと思います。
「雪中の松柏、いよいよ青々たり」という言葉があります。
雪が降り積もる中でも、青々と葉をつけ、凛とした松の木のたたずまい。そこに重ねて、いかなる困難に直面しても、強い信念を持って立ち向かう人を、たたえる言葉です。
もちろん、このような事故は二度とあってはならない。我々は、そのために全力を尽くさねばなりません。
しかし、国家の存立にかかわる困難な任務に就く諸君は、万が一の事態に直面するかもしれない。
その時には、全身全霊を捧げて、国民の生命と財産、日本の領土・領海・領空は、断固として守り抜く。その信念を、堅く持ち続けてほしいと思います。
そのために、どんな風雪にもビクともしない、あの松の木のごとく、諸君には、いかなる厳しい訓練や任務にも、耐えていってもらいたいと思います。
厳しい冬の中で、松の木の青々とした姿は、周囲の見る人たちを、大いに励ましてくれるものであります。
(私の感想)
同時に自衛隊の方が戦闘しなければならない事態を絶対に避ける、ということに政治家は全力を尽くさねばなりません。
人に言うだけではなく、安倍首相自身も強くここで宣言して欲しいもんです。
2月の大雪災害において、雪で閉ざされ孤立した集落の人たちが、昼夜を分かたず救助活動にあたる自衛隊員の姿に、どれほど勇気づけられたことか。
昨年、豪雨被害を受けた伊豆大島でも、行方不明者の捜索を懸命に続ける自衛隊員の姿は、国民に大きな勇気を与えてくれました。
今ほど、自衛隊が、国民から信頼され、頼りにされている時代は、かつてなかったのではないでしょうか。
諸君には、その自信と誇りを胸に、どんなに困難な現場にあっても、国民を守るという崇高な任務を全うしてほしい。そして、国民に安心を与える存在であってほしいと願います。
常に国民のそばにあって、気高く存在する、「雪中の松柏」たれ。諸君には、こう申し上げたいと思います。自衛隊を頼りにするのは、今や、日本だけではありません。
マレーシアでは、行方不明となった航空機の捜索に協力しています。フィリピンの台風被害では、1200人規模の自衛隊員が緊急支援にあたり、世界中から感謝の声が寄せられました。
ジブチや南スーダンでも、摂氏50度にも及ぶ過酷な環境のもと、高い士気を保つ自衛隊の姿は、国際的に高い評価を受けています。
冷戦後の地域紛争の増加、テロによる脅威。変わりゆく世界の現実を常に見つめながら、自衛隊は、PKOやテロ対策など、その役割を大きく広げてきました。
自衛隊の高い能力をもってすれば、もっと世界の平和と安定に貢献できるはず。世界は、諸君に、大きく期待しています。
(私の感想)
自衛隊という戦闘集団でないとできないことはない、ということも忘れてはならないと思います。
子供の夢とか頭にお花畑とか言われるかもしれませんが、ここで首相が述べているようなことを専門におこなう国際救助隊のような組織を作れば、世界中から一目おかれると思うんですけどねぇ。
そっちの方が、イージス艦やミサイルを買うよりもよっぽど抑止力にもなると思います。
今日、この場には、カンボジア、インドネシア、モンゴル、フィリピン、大韓民国、タイ、そしてベトナムからの留学生諸君がいます。
日本は、諸君の母国とも手を携えて、世界の平和と安定に貢献していきたい。ここでの学びの日々で育まれた深い絆をもとに、諸君には、母国と我が国との友情の架け橋になってほしいと願います。日本を取り巻く現実は、一層、厳しさを増しています。
緊張感の高い現場で、今この瞬間も、士気高く任務にあたる自衛隊員の姿は、私の誇りであります。
南西の海では主権に対する挑発も相次いでいます。北朝鮮による大量破壊兵器や弾道ミサイルの脅威も深刻さを増しています。
日本近海の公海上において、ミサイル防衛のため警戒にあたる、米国のイージス艦が攻撃を受けるかもしれない。
これは、机上の空論ではありません。現実に起こり得る事態です。その時に、日本は何もできない、ということで、本当によいのか。
戦後68年間にわたる、我が国の平和国家としての歩みは、これからも決して変わることはありません。現実から乖離した観念論を振りかざして、これまでの歩みを踏み外すようなことは、絶対にない。我が国の立場は、明確です。
しかし、平和国家という言葉を口で唱えるだけで、平和が得られるわけでもありません。もはや、現実から目を背け、建前論に終始している余裕もありません。
必要なことは、現実に即した具体的な行動論と、そのための法的基盤の整備。それだけです。私は、現実を踏まえた、安全保障政策の立て直しを進めてまいります。
全ては国民と主権を守るため。諸君におかれても、その高い意識をもって、いかなる現場でも、現状に満足することなく、常に高みを目指して、能動的に任務にあたってもらいたいと思います。
(私の感想)
これは暗に現行憲法が「建前論」って言っているように聞こえます。
憲法前文で「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであって、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。」んです。
総理はこの憲法を遵守する義務があります。
そして自衛隊という戦闘集団に対しては専守防衛という大前提を置いてきました。
防衛省のホームページから専守防衛の意味を引用します。
「専守防衛とは、相手から武力攻撃を受けたときにはじめて防衛力を行使し、その態様も自衛のための必要最小限にとどめ、また、保持する防衛力も自衛のための必要最小限のものに限るなど、憲法の精神にのっとった受動的な防衛戦略の姿勢をいいます。」(http://www.mod.go.jp/j/approach/agenda/seisaku/kihon03.html 防衛政策の基本)
これが今まで日本が積み重ねてきた平和国家としての歩みです。
安倍首相が今回のような事を語るとき、当然頭の中には仮想の"敵国"があるはずですが、
その"敵国"の軍人だって、親がいて家族もいる人間です。彼らも「自国のため」という使命感、責任感を持って戦っているはずです。
ではなぜ同じ使命感、責任感を持った人間が国が違うだけで殺し合わねばならないのか?
それを指導する人間(日本ではそのトップが首相になると思います)が無能で、この事態を回避できなかったためです。
そしていずれの国でも、その指導する本人が銃を持って前線に立つことはないでしょう。
結局、実際に戦場で戦う軍人もまた被害者なのだと思います。
戦争は絶対にしてはいけないのです。
そうしないために全力を尽くすべきなのに、戦争出来る国へと安易な方向へ流れすぎです。
「唯 至誠を以て 御奉公申上ぐる一事に至りては 人後に落ちまいと 堅き決意を 有している。」
日露戦争のあと学習院長に親任された乃木希典・陸軍大将は、軍人に教育などできるのか、との批判に、こう答えたと言います。
どんな任務が与えられても、誠実に、真心を持って、全力を尽くす。その一点では、誰にも絶対に負けない。
その覚悟をもって、諸君には、これからの幹部自衛官としての歩みを、進めていってもらいたいと思います。
その第一は、何よりも、諸君を支えてくれる人たちへの感謝の気持ちです。
乃木大将は、常に、第一線にあって、兵士たちと苦楽を共にすることを、信条としていたと言います。諸君にも、部下となる自衛隊員たちの気持ちに寄り添える幹部自衛官となってほしい。同時に、諸君を育んでくださった御家族への感謝の気持ちを、忘れないでほしいと思います。
今日も、本当に数多くの御家族の皆さんが、諸君の晴れ舞台を見るために御参列くださっています。
私も、最高指揮官として、大切なお子さんを自衛隊に送り出してくださった皆さんに、この場を借りて、心から感謝申し上げたいと思います。
お預かりする以上、しっかりと任務が遂行できるよう万全を期し、皆さんが誇れるような自衛官に育てあげることをお約束いたします。
最後となりましたが、諸君の今後の御活躍と、防衛大学校の益々の発展を祈念し、私の訓示といたします。
(私の感想)
この訓示を見ながら「戦争絶滅請合法案」を思い出しました。
20世紀の始めにフリッツ・フォルムというデンマークの陸軍大将が作った法律案で
『憲法が変わっても戦争にならないと思っている人のための本』
(高橋哲哉・斎藤貴男 編著 日本評論社)
で紹介されていました。
ーーーーーここからーーーーー
戦争行為の開始後又は宣戦布告の効力の生じたる後、十時間以内に次の処置をとるべきこと。即ち下の各項に該当する者を最下級の兵卒として召集し、出来るだけ早くこれを最前線に送り、敵の砲火の下に実戦に従わしむべし。
一、国家の元首。但し君主たると大統領たるとを問わず、尤も男子たること。
二、国家の元首の男性の親族にして十六歳に達せる者。
三、総理大臣、及び各国務大臣、並びに次官。
四、国民によって選出されたる立法部の男性の代議士。但し戦争に反対の投票を為したる者は之を除く。
五、キリスト教又は他の寺院の僧正、管長、その他の高僧にして公然戦争に反対せざりし者。
上記の有資格者は、戦争継続中、兵卒として召集さるべきものにして、本人の年齢、健康状態等を斟酌すべからず。但し健康状態に就ては召集後軍医官の検査を受けしむべし。
以上に加えて、上記の有資格者の妻、娘、姉妹等は、戦争継続中、看護婦又は使役婦として召集し、最も砲火に接近したる野戦病院に勤務せしむべし。
ーーーーーここまでーーーーー
この法律があっても安倍首相は同じことを言えるのか、ぜひとも聞いてみたいところです。
出典:首相官邸HP(http://www.kantei.go.jp/jp/96_abe/statement/2014/0322kunji.html)
新規作成:2014/03/30
最終更新:2014/03/30